「佐保川ラジオ」のデザインについて

in 思考の果実


今年の5月末に奈良県立図書情報館にて行われるイベント「佐保川ラジオ」のフライヤーデザインをさせていただいた。宝塚の怪人・メディアピクニックの岩淵さんとスキマインダストリーズの浅利さん、そして図書情報館の乾さんによる企画。いつも前例のないことばかりカタチにしていかれる方々の仕事だ。

このイベントは、奈良県立図書情報館という「図書」だけでなく「情報(デジタル等の)」も扱うという先進的な図書館にて開催するイベントであり、その内容とは「図書館内に2日間だけインターネットラジオ局を開局し、ラジオ番組を持ち寄って、聴き合い、話し合う。そうすることでまた新たな文化を発信する、というもの。その2日間の放送は当然録音され、DVDなどのメディアに記録されて、その音声まるごと図書館に収蔵される。
なにも図書館は本のみを収蔵するものではなく、音声データも収蔵して構わないんじゃないか。だったらそのソフトごとイベント化して、来館者と楽しみながらつくり合ってしまったらいいんじゃないか、という他の図書館ではまず実現し得ない不思議なイベントだ。

去年も開催していて、今年は2回目。去年はその場で番組をつくりながら放送していくようなイベントだった。打って変わって今年は事前にラジオ番組をつくって持ち寄るという方式をとられる。
岩淵さん達が「メディアでよく見かけるような有名人じゃない普通の人だけと、好きでやってることや考えていることがちょっと普通を超えて面白い人」にラジオ番組制作を依頼。集まった10の番組に加えてミュージシャンによるライブも織り交ぜながら、来館者を交えて番組を聴きながら話し合う……という内容になっている。
また「ラジオブックレビュー」という番組制作者とは違う10人(デザイナー、不動産屋、本屋、小説家、ヨーデル歌手など)がオススメの一冊を声で紹介する、というコーナーもある。(基本的にこの図書館でのイベントは、どこかで「本」が絡んでいたら成立するらしい)

放送されるラジオ番組は、
・長野県の茅野市民館で開催され続ける持ち寄りイベント
・編集社に就職したい大学生の悩み
・10日間でダンスをつくるワークショップの報告
・鳥取のゲストハウスの食卓
・写真家の作品コンセプト
・東京の本屋さんが絵本について思うこと
・独自に考えた読書会
・小学生に映画をつくらせるワークショップの報告
・石川県の音楽家の思考
・沖縄のFM局が開催したイベント

というバラエティあふれすぎる内容になっている。たしかに有名人ではないだろうけれど、どう考えても普通の人の範囲を十分に超えているような気がしてならない人たちが、自分達でラジオ番組をつくって持ってくる。単純な独白肉声データじゃなく、オープニングからエンディングまできっちりつくられたラジオ番組が揃うらしい。

そんなイベント、広報デザインをするにあたって話を聞いていくと、

要素A:奈良らしさ
要素B:ラジオ局

に加えて、

要素C:「普通の人による普通をちょっと超えた活動」をいかに愉快にビジュアルで表現するか

という3つの構成要素がデザインに必要だということになった。そしてそれは、A≧C>B という順序だろうということになった。

要素Aについては「鹿」が皆の共通イメージとして浮かび上がった。タイトルの「佐保川」とは図書館の前に流れる川の名前で、桜の名所としても知られている。しかしながら開催は5月末。よって桜は咲かないしピンクのイメージでもない。

要素Bについては、A・Cほど強くはないが、単なるトークイベントではなく「ラジオを放送する」という意図も欠くわけにはいかない。ラジオ機器やマイク、投稿ハガキなどの「ラジオにまつわるなんらかのビジュアル」が欲しい。

そして、要素Cについては、その10の活動の「際立った多様さ」は、活動内容そのものを一挙にごちゃまぜ的に表現することがベストなのではないか?と考えた。それはイラストでも表現は可能なのだけれど、イラストだと本当に活動しているという「リアルさ」に欠けてしまうと考えた。だから、活動内容の写真を寄せ集めてコラージュにて表現することとした。

加えて「普通の人の活動」の足りないビジュアルを補うために「クリエイティブ・コモンズ」の写真を活用させていただいた。僕やカメラマンが新たに撮影したり、写真を購入するよりも、こうすることのほうがイベントの方向性とより強くシンクロするのではないかと考えたからだ。
その中でも再編集・再配布可能な鹿、マイク、ヘッドフォン、樹の写真をインターネットで探し出した。そして、騙し絵のような、ひたすら奇々怪々でありながらもポップさを保ったデジタル・コラージュをつくった。
また、それが強烈な分、タイトルロゴはいかにも「ラジオ局にありそうな」ロゴデザインとした。

なぜ、事前にラジオ番組をつくってもらうことにしたのか。岩淵さんに問うてみた。すると、生放送は放送事故が怖い……という点がひとつ。そして「自分の活動を番組化する」ことが、自分の活動を客観的に振り返って、さらに再編集することにつながり、自分の活動を強化することになるのではないか、と考えたからだそうだ。

僕もその考えには賛成だと思った。だから、今回から自分のデザインについての制作理由をブログにて文章化することとした。広報のためのデザインは、いちいちごちゃごちゃ説明せずとも一目見ただけで「買いたい」「食べたい」「手に入れたい」といった欲望を刺激するものでなければならないと僕はいつも考えている。だから、あれこれ説明するものではないなあ、と思っていたのだけれど……。