背中に良性の腫瘍が

in 思考の果実

背中に良性の腫瘍ができてた。名前は粉瘤腫(アテローマ)という。

最初に違和感を感じたのは今から3週間ほど前。はじめは背中ににきびのような吹き出物のようなものができたのだとばかり思っていた。ちょっと腫れてるようななにか。しかしそれは日に日に大きくなり、吹き出物ではすまないくらい大きくなっていった。偶然にも椅子に座ったりしても当たらないところだったが、浴槽で座ると当たって痛い。そして大きくなるにつれて、なにか液体でも入ってるかのような、ぶよぶよとした触感にそれは変わっていった。

にきびのようなものならこんな水っぽいものではないはずだ。妻はそう言うといつものごとくグーグルで検索し、「これはおそらく粉瘤腫やで。症状が一緒や」と言ったかと思えば、これは手術して除去しないと治らず、徳島ではとある整形外科クリニックが自社サイトで詳しく解説していて、ここが信用できそうだよ、と提案してきた。

えー、うーん、そっかー。行かんとあかんか。今ちょっと来客とか連続ワークショップとかで抜け出せそうにないから、また今度な。そう思いながら数日過ごし、それからそのクリニックの午前の最終患者になるようにタイミングを合わせて行ってみた。

妻の予想は大当たり。ずばり粉瘤腫だった。しかも普通診察に来るやつよりも大きいサイズらしく、ぶよぶよしているのは中で細菌が感染しており、炎症を起こしてて皮一枚で破裂を免れているという状態だと告げられた。

「森口さん、これから今ちょっと時間ある?」

お医者さんがそう言うので、うーん、あるかな?と応えると、

「じゃあ今から30分ほど手術して取っちゃいましょう。取ったほうがええ。すぐ取ろ」

と言うではないか。

ええっ……今ですか? なんか、炎症起こしてるならそれを抗生物質飲んだりして押さえてから手術するとかネットで見たけどな……。
と思っていると、

「いやもう私ら次の患者さんも無いし、これからご飯休憩やからその時間を利用して切りましょ」

などと言ってくる。

そこまで言われると、逆に断りづらいな……と思い、急遽手術をした。

ベッドにうつ伏せになり、腫瘍のまわりにまんべんなく麻酔を6本ほど打たれながら、この病気はそもそも何なのか、ということをお医者さんに尋ねた。

粉瘤腫というのは、通常ならば新陳代謝によって表皮から剥がれて落ちる垢や老廃物が、どういうわけか皮膚の下に「袋」を作りながら溜まっていってしまう、という病気なのだそうだ。

マジで? 俺の体そんなに汚かったんですか? と聞き返すと、いやこれは清潔不潔関係なく、起こるときに起こってしまう病気で、めちゃめちゃ身体を洗ってても突然起こってしまう。疲れとかストレスとか免疫力の低下とか、そういうことも原因ではなく、「ある日突如なってしまう病気」なのだそうだ。つまり、未然に防ぐ方法が無い。予防できない。遺伝的なものかもしれないし、生まれつき皮膚が弱い人はなりやすいらしいが、それも断定はできない。皮膚の下につくられてしまった「袋」に細菌が入らなければ(たとえばかきむしってしまったりして)、そのまましこりのようなものが残り続けるだけで、特に生活に支障も無い。
そして完治させるには、その「袋」を取り出す必要があるのだそうだ。今回の僕の場合は感染症を引き起こして化膿しているが、たとえば皮膚が裂けて破裂してしまった場合、中の液体が全て流れ出てしまったら消毒などしておけば治るのか、というと治らない。「袋」がある限り、そこにまた自動的に老廃物が溜まってしまうらしい。「袋」を綺麗さっぱり取り除けば、再び通常どおりの新陳代謝が行われるのだという。

僕は聞いていて、いったい僕の背中にどのような「袋」が生成されてしまっているのか、それが気になって仕方がなかった。僕の皮膚の下に、身体の中に筋肉や脂肪を押しのけて何らかの「袋」が作られている。袋の中には垢や老廃物。エグい。キモいよ。やだよ。どうしてそんなメカニズムが生まれてしまっているのか。その「袋」は水風船のように薄いのか? はたまた厚み1mmくらいの厚い弾力性のあるものなのか。できたのが背中で手術の様子を全く見ることができないだけに、余計に僕の妄想は広がるばかりだった。

「さて、いきますか」
「よっ」
「あっ」
「うわー」
「ガーゼガーゼ」
「よしっ」
「ほっ」

といろいろな声をあげながら、お医者さんは切っていった。
しばらく続けて
「よーしとれたとれた」
「けっこう大きかったから、直径5cmくらい、深さ4cmくらいかな? ぐるっとえぐりとりましたー」
「じゃあこれから縫ってきまーす」
と、かなり軽いタッチでちょっとショッキングなことを言われた。

縫い終わり、看護婦さんがあとの処理をしていて、「どんなんだったんですか?」と聞いてみた。すると、

「化膿しとったから、メスを入れた途端に中の汁がだいたい出てしまって、「袋」はかなり萎んでしもたなあ。おっきかったけど、萎んでしまいましたわ」

と、まるで萎んだことが残念なことであるかのように言われた。

それから手術結果の説明をお医者さんから聞いた。

「うわ!」と思うような血まみれの肉塊が、大きめのホルモンのハツのような牛脂のような肉塊が差し出され、
「本当はこれっくらい大きかったんじゃけど(指で5cmくらいの輪っかを作りながら)、刺したらちゅーーって萎んでしまいました。袋は4cmくらいのものだったので、袋をまるごと取るために外周5mmほどぐるっと削ってまるまる取りだしました。で、森口さん見ててね。こうやって切ってみると……! ほらほら! これが老廃物! でこのうっすい膜みたいなのが袋! 見えます? これは化膿するともっと薄くなってね、周りの組織と癒着しちゃうから取り除くのが大変なんよ!」

と、左手のピンセットで押さえながら、右手のメスで肉塊をギコギコと割り、もはや楽しそうだと言えるくらいはつらつとした表情でお医者さんは具体的に説明をしてくれた。自分の技術を得意顔で説明してる、というような様子では決して無くて、どちらかと言えばウチの息子が「見てお父さん!すっごいレゴ作れたよ!」と喜々として知らせに来るあの様子に似ていた。

この人、今の仕事本当に楽しいんだな、と思った。

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