パン屋がはじまる(4)

in 思考の果実

パンを焼くテストが無事終わり、26日・27日の徳島4K映画祭での出店内容が決まった。

パンはクッペを5種類。1日96個限定(3時起きでひとりで捏ねはじめてこれくらいが限界)。
・有機黒ゴマのクッペ
・有機ドライフルーツとクルミのクッペ(有機イチジク、有機レーズン、有機クランベリー入り)
・クミンのクッペ
・何も足さないクッペ(具なし)
・有機トマトジュースで捏ねたチーズのクッペ(ヒカリのトマトジュースを生地に練りこんだ)

当初、普通にチェダーチーズでクッペを焼いていたが、大阪時代に水の変わりにトマトジュースを練りこんでチーズを入れて焼いたカンパーニュが「紅白饅頭みたいでめでたい」と好評だったのを思い出して、つくてみたらとても美味しかった。チーズのクッペはこれに変更。

そして、今回はパンと合うスープも出す。スープづくりは全面的に妻が担当。妻が愛してやまない「白崎茶会」のレシピをもとに、地粉のドミグラススープときのこのスープを出します。両方とも動物性たんぱく質を使わないスープ。

で、一昨日の話なのだが、このトマトのパンをテストするため、そして「朝4時に起きて捏ねてみたら、何時頃焼きあがるか」を試してみるために24個焼いた。
当初は「前日から焼いてればいいじゃない。ここ神山町の無店舗パン屋「沢パン」も、イベント出店の時は前日焼いてるパンを出してるって言ってたし」と思ってた。そんなに味がむちゃくちゃ変わるわけじゃないじゃない、と。

でも妻は「いやいや、ここまできたら当日早くに焼いて、焼きたてを出したほうが絶対にいい。だから普通のパン屋のように2時3時からアンタ捏ねないと」と言うのである。

あのね、本業はデザイン事務所でね。午前2時って普通寝る時間だよ(普通のデザイナーが夜もずっと仕事をして寝る時間がそれくらい)。なんで寝る時間から捏ね始めて、3〜4時間後に成形してってやらんとあかんの。それ、いつ寝るの? どうして森口家が「ブラック家内制手工業」になるの?(しかも基本的に僕の負担が大きいんじゃ…)そう思っていて、「こんな限界集落で都市より無理なんかするもんか!」と思った。

話が変わってこの日、神山町の「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」では、18時から「ポートランダートークin神山」という小さいイベントが開かれることになっていた。徳島大学神山学舎の恒例イベントらしく、今回はポートランド市民のメーガンさん、ユリさん、サイラスさんの3人が来日し、ポートランドの暮らし・子育て・農と食を通した「場」づくり・CSA・ファームtoテーブル活動などについて井戸端会議的トークが開催される、とのことだった。これは参加してみたいと思い、ちょうど朝10時ごろにパンが焼きあがったし、今日は祝日で町の友人たちは出払っているだろうから、特にこの会の誰にも言わず、パンを持って行ってナイフで切って食べながらトークをしてもらおう、と考えた。18〜20時のトークだったらご飯があっても誰も文句は言うまい。外国の方も食べてくれそうだし。

そう思って持って行き、何も足さないクッペとクミンのクッペとトマトチーズのクッペをスライスして並べ、みんなでつまみながら話をした。とても興味深い話だった。ポートランドと神山は、成り立ちから課題点まで「骨」の部分が似ていると思った。また、パンもみんな「美味しい美味しい」と言ってくれて、とても嬉しかった。

が。しかし。しかしである。少しずつ、その「おいしいおいしい」の声がちょっと我慢ならなくなってきた。いや、本当は「もっとおいしい」んですよこれ。10時に焼いて19時ごろに食べる。今回は「早朝に焼くテスト」だったからそれは仕方ない。でもね、たとえばまず天然酵母のハードパンがおいしいのは焼きたてではなく焼いて冷めてから。焼きたて2時間くらいがまず1度目の「もっとおいしい」で、それからはオーブンで軽く温めてカラッとさせたのを食べるのが「もっとおいしい」んですよ。だから、今みんなが食べてるパン、オーブンで温めたい。本当に、今すぐ、オーブンで温めたい。手を伸ばすのちょっと待って! それ、オーブンで温めたい!
そんな気持ちでいっぱいになってしまった。ので、コンプレックス内にある小さいオーブンを引っ張ってきて、焼いて出した。こうすると味が全然ちがうんですよ、と。

案の定、みんなは「別のパンみたいや!」と喜んでくれた。納得。納得だ。超スッキリしたし超嬉しい。ベストの形を味わってもらわないと、つくった甲斐がないと思った。

そんな思いが自分の中によぎったと同時に、「ああ!!俺、2時3時に起きてパン焼かんと! それがベストの味で出せる方法だったら、それをやらんと!」と思い至った。
どんなにいい材料で出そうが、食べ物で大事なのはおいしいかどうか。「まあ、材料がいいし、手作りだから、パンマニアばかりが食べるもんじゃないんだから、こんなもんでしょ」ではいけない。そもそもデザインも一緒ではないか。世に出た成果物が実力のすべてとなってしまうこの世界、業界人や玄人にだけウケるものづくりなど論外で、むしろ「ふつうのひとびと」が率素直に喜んでしまうようなものを毎回つくってナンボ。そうなるように最大限行動することこそ、僕の「努力」ではなかったか。

一般的な枠の日本人だからご飯も当然美味しいし、グルテンだのアレルギーだの言われるときもあるけれど、肉料理やスープと一緒に食べる食事パンのある食卓も、いつもよりちょっとワクワクしてとてもいいものだと思います。

1日につき96個、各味あたりだと20個も無いので、もしかしたら簡単に売り切れるのかもしれないし、もしかしたら売れ残って家族全員涙目なのかもしれない。けど、この「健やかで美味しいパンをつくって売る」ことで、だれかの食卓がちょっと豊かになればいいな。そして、僕らがパンをつくって売ることで、まだ見ぬ素敵な誰かと誰かがたくさん出会うきっかけになればいいな、と思います。ぜひ。

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