さよならアウンクリエイティブファーム

in 思考の果実

年内いっぱいで、僕のデザイン事務所「AUN CREATIVE FIRM」の名称をやめようと思う。

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はじめてグラフィックとウェブのデザイナーとして就職したデザイン会社は、主にクライアントの性質や製作者の特性によってチームを編成していた。対広告代理店チーム、対学校案内・会社案内チーム、コピーライターチーム、ウェブチーム。今考えてみたら、ウェブとコピーはどんな内容のお客さんであっても、もはや必ずと言っていいくらい関係せざるを得ないものだし、広告代理店と企業直取引との対応はどのようにちがうのか、と言われると何も変わらない(キツさだけかわる)。よって、チームの分け方がおかしいといえばおかしいのだが、それが反面教師的に今の自分に活かされている。
僕はデザイナーになった以上、どんなもののデザインしたいと常に思ってしまう。「広告しかデザインしたくないし、広告のデザインこそがメジャーで『格』が高い」などと思い違いをするデザイナーが大嫌いだったし、また自分がウェブしかさせてくれなかったというのも辛かった。また、「デザイナーの私がやるべき仕事ではない」などと言ってコピーやコンセプトを考えもしないデザイナーも嫌いだった。言葉から考えていって、お客さんの信念や目標をしっかりとらえないと、デザインなんてできないはず。そう思っていた。だから、言葉を考えるのも大好きだった。

6年前の12月、頭に解離性大動脈瘤が見つかって「好きじゃないところで好きじゃないことに命を削って働くのはやめよう。やりたいことをやりたいだけやる暮らしにしよう」という確固たる思いを持った。それから約1年かかって退職し、独立。ジャンルを問わず、グラフィックでもエディトリアルでもウェブでもデザインし、撮影もするし文章も書く。全部楽しいからやる。一番最初のコンセプトづくりから話し合えば、すべてできあがってからも、次の流れをどうつくるか?まで考え合う。「阿(この世のはじまり)」から「吽(この世の終わり」まで、全部つくりたい。そう思ってこの屋号を思いついた。

でも、実はこの屋号を名乗るのが恥ずかしくてたまらなかった。たったひとりでやっているにもかかわらず、妙に「かっこうつけてる」ような気が自分でしていて、名刺交換する際や電話で名乗る時など、「アウンクリエイティブファームの森口です」と言うのが恥ずかしくて言えず、「デザイナーの森口です」としか言えなかった。とある県庁と仕事をした時など、僕があまりにも「デザイナーの森口ですが」と電話をかけるので、その部署の人たちは「◯◯さんはファッションデザイナーと仕事をしてるのか」などと思われて笑われていたらしく、できるだけ屋号を名乗って電話をかけてほしい、と懇願されたこともあった(でもしなかった)。

考え方、理念は的を得た屋号だとしても、自分自身とはどこか一致していない気がした。「森口デザイン事務所」でも良かったじゃないか? と思うこともしばしばだった。

で、今年神山町に引っ越してきて、個人的には「デザイン事務所+出版社」をしようといろいろと準備をしてきた。デザインスキルの中の足し算ではなくて、異業種を同時に平行しながら、交錯しながら突き進むような働き方をしたい。ようするに欲張って生きていきたい。どちらかを選ばねばならないのなら、どちらも求めよ。そういう感じでいきたい。
僕が心から興味があるのは「本を作ること」であり、デザイナー+編集者ではなく、デザイン業+出版業をしたい。僕は専門学歴も何もないままいろんな仕事にとりかかることができたのは、それを人から教わらずに「本」から教わったからだった。だから、僕も誰かの背中を「本」で押すことがことができたら嬉しいな、誰かの大事な言葉を「本」にして時代を超えて残したいな、と思っていた。僕の「やりたいことをやりたいだけやる」は本づくりだ。

でも、大阪時代からけっこう聞こえてきたのは「パン屋かピザ屋をやれば」という声だった。たしかにパンづくりもめっぽう面白い。前にも書いたとおり、写真に似た面白さと飼育感覚を併せ持ち、そして面と向かって一瞬で喜ばれる創作物。パン。でもまあこっちは妻がメインでやったらいいのでは?とも思ってもいたが、ここ2ヶ月くらいでいろんなパーツがぴったりと合わさるように集まってきて、出版社よりも先にパン屋をすることになった。

独立したての時は、グラフィックデザイン+ウェブデザイン+エディトリアルデザイン、できればプロダクトデザインもやりたいな、などと思っていて、「デザインにまつわる制作業ぜんぶ」をやりたいと思っていた。でも今はその枠では物足りなかったり疑問を感じる点も多くなり、デザインと出版とパン屋、という関係の無い事業をひとまとめにしてやることになった。食の仕事をしたい、と思うのは「暮らしに直接結びつくことを仕事にしたい」ということでもある。また、「特技」や「朝、目が覚めてやりたいと思う仕事」や「他人から求められる仕事」を全部やっていったらこうなった、ということでもある。
しかも今度は今までとはちがって夫婦で組みながらやっていくことでもあるから、「森口家」ができること、「森口家」がやりたいことが渾然一体となった「しくみ」というか「せかい」というような屋号であるべきだ、と考えた。だから。


2017年から「モリグチャウダー」(MORIGCHOWDER)という屋号にします。森口夫婦の過去・現在・未来のできることとやりたいことの渾然一体のかたち。仕事も暮らしもオンもオフも全部混ざってる「生きざま」みたない「在りかた」みたいなそのかたちは、スープのかたち。そして「かっこうつけてる」ようなのよりも、ちょっと笑えてしまうような屋号のほうが、むしろ僕らしいと思うから。

思考の酵母: