遅れてきたシュトレン

in 思考の果実

ここ2、3年、パン作りを覚えた妻はクリスマス前になると「シュトレンを焼いてはお世話になった人たちに勝手に送りつける」という行為を恒例行事のように行っていた。林檎やレーズンで育てた自家製天然酵母でつくったシュトレン。出し惜しみもせずにだいたいオーガニックな素材を使ったシュトレン。「今年はあれこれでお世話になりました」みたいなちょっとした手紙とともに送りつける。そういう行事だ。

昨年の年末は、神山町に引っ越すお世話をしていただいたふたりの恩人に送った。残念ながら昨年末は長男の体調が絶不調でこの2本しか焼けず、しかも送ったのは12月30日とかだった。シュトレンとはドイツのお菓子で12月1日からクリスマスを楽しみにしながらちょっとずつ切っては食べて、クリスマスを待ち望むためのお菓子だ。でも送ったのは30日。感謝の気持ちは重々あるが、こっちもこっちで日常が死に物狂いの戦場だった。それはそれで勘弁してほしいけれど、でもウチのシュトレンはそこらへんのお店で買うよりも絶対に美味しいしお得だから食べてね。正月の三ヶ日とかだいたい暇で、お餅やお雑煮くらいしか甘いもの無いだろうから、こういうオールスター的な無敵洋菓子があってもいいじゃない。家族や親戚が集まった正月の三ヶ日とかにみんなで食べてくれりゃあいいじゃない。そういう思いが妻にはあった。

そんなウチのシュトレン。第一の特徴は大きさだ。とても大きい。普通に売ってるシュトレンの二倍くらいを目標にして焼いている。全長27センチとか30センチとかで、重さは850グラムとかある。
どうしてそんなに大きくするのかというと、あの一般的に売られているシュトレンのサイズだと、12月1日からチビチビと食べ始めたと仮定しても「1〜2人用」じゃないのか、と妻はずっと疑問を抱いているからだ。あんな「大きめのスマホ二枚分くらい」のお菓子など、あたし一人で2日もあったら食べてしまう。店側は4人家族で23日も待ちわびる側のことを考えてみるべきだ。そういう気持ちがあり、「材料費は横に置いといて、まずは4人で食べ続けて毎日幸福を感じるサイズを、受け取った瞬間に『でけえな!』とか感嘆されるくらいのサイズを目指そうよ」というスタンスを妻はとっている。

第二の特徴はできるだけ安心できる素材を使う、ということ。ベースとなるライ麦粉はオーガニック認証のライ麦粉を使う。今回はフィンランドから取り寄せた。他のベースとして強力粉の全粒粉があるが、それは栃木県で無農薬無肥料で放射能未検出の全粒粉を取り寄せた。バターをたっぷりと使うが、ニュージーランド産の「グラスフェッドバター」と言って、牧草のみで育てた乳牛から取れたバターを使い(一般的には今や遺伝子組み換え飼料のみを与えて育ててる)、砂糖も甜菜含蜜糖を使う。中にはイチジク、普通のレーズンと山葡萄のレーズン、ナツメヤシ、アプリコット、オレンジピールが入ってて、全部オーガニック。その上にアーモンドプードルとカシューナッツと胡桃が入ってる。

モリグチャウダーのシュトレン。最初に焼いた3つだけ、神山町産の栗の渋皮煮が入ってる。栗はすぐ無くなってしまい、今はしっとりしてて超美味しい「マジパン」が入っている。

モリグチャウダーのシュトレン。最初に焼いた3つだけ、神山町産の栗の渋皮煮が入ってる。栗はすぐ無くなってしまい、今はしっとりしてて超美味しい「マジパン」が入っている。

で、それを神山に引っ越すきっかけとなった恩師に昨年末送ったところ、「これは売り物にするといい。神山に引っ越してきたら(デザイン事務所もしながら)パン屋をやって、シュトレンも売ったらいい」と言われた。紆余曲折を経て今年神山でパン屋をすることができた。だからシュトレンも焼いて売ることにした。

最初は売るつもりで作っていなかったため、贅沢な材料を好きなだけ使って作っていた。だから今年は「値ごろ感」を考えながら逆算して作らねばならなかった。夫婦でいろいろ話し合って、上記のナッツ類だけはオーガニックは避けた。この巨大さで3000円にしたかったので。

今年の反省点は、パン屋を11月末からはじめてドタバタしていて、デザインの仕事もいろいろと佳境を迎えてて、妊婦の妻が家事育児的にも体調的にもあっぷあっぷになったりしたのが重なって、シュトレン作りがとてもとても遅くなってしまったというところだ。第一弾が完成したのが12月12日とか13日とか。もう完璧に本来のカウントダウンから遅れをとってしまっていた。まーがっかりされながらも予約的に受けていた人にお渡しした。ネットショップ機能もできていなかったので、誰に聞いたのか忘れがちになってしまうところもあって(ごめんなさい)、まー今年のシュトレンはご期待に添えなかった感でいっぱいだ。とても申し訳ない。

ただ。ただ、だ。

先日も神山町で商店を営むご年配の方の注文を受けてお渡ししたら、「これは正月にいろんな子達が帰ってくるから、その時にみんなで食べるわ。こんな立派だと、みんなで食べれてええわあ」と言われた。

そう。そうなのだ。本国は宗教的に「クリスマスまでのカウントダウン」なのだろうが、日本もそれに合わせることはないんじゃないか。

終業式が終わったり年納めの仕事が終わったりして冬休みを迎え、やれ年末の大掃除だの正月の準備だの暇になった子供の相手だのに明け暮れる年末年始に、滋養のある甘さを持った珍しい冬の洋菓子を家族みんなで食べる。

正月を迎えておせち料理やお雑煮を食べ、さあ甘いものを食べようかと言ったらお汁粉やぜんざい、お餅といった餡子ベースのものしかない三ヶ日に、滋養にある甘さを持った珍しい冬の洋菓子を親族一同で食べる。

そんな「新しいシュトレンの在り方」があっても、いいんじゃないか。そういう味わい方・楽しみ方ができるだけの大きさと重さがウチのにはあります。

 

と今こんなクリスマスイブに、家族サービスでヘトヘトになった土曜のクリスマスイブに、サンタからのプレゼントを今夜のどれくらいの時間帯に仕込んどいたらオーケーなのか……仕込んでから夜中突然息子が目覚めてプレゼント見つけて夜中に狂喜乱舞しやしないか……でも早朝仕込む勇気(早朝起きる勇気)はもう無いしな……と気を揉んでいるクリスマスイブに、思いついています。

 

帰省時に家族みんなが笑顔になる、新しい縁起物「ニューイヤーシュトレン」。アリですか? 材料は豊富にあるので、注文があったらすぐ作って送ります。

思考の酵母:

2 Responses

  1. 三原重央 より:

    シュトレン一本お願い致します。