奇病発生(その2)

in 思考の果実

体温が上がると身体が針で刺されるようにチクチクする。これをどうにかしないと何も手につかないしものすごい不安なので、病院に行った。徳島市にある漢方専門のクリニック。全国的に有名なところで漢方の本も出版されている。そう遠くないところにこういう病院があって本当に幸運だった。

なぜ漢方専門を選んだのか。それは、もしも普通の病院に行って診てもらったとしても、まずうまくいかないであろうことがわかっていたからだ。湿疹や腫れなどといった「誰にでも見たらわかる症状」があるわけではなく、単なる僕個人の主観的な反射・反応の「痛み」という症状なわけだから、普通に医者に症状を話したところで診断することがものすごく困難なはず。さらに「怒ったら刺されたように痛い」などということを言うと余計にやっかいなこと極まりない。皮膚科かもしれないし内科かもしれないし、心療内科かもしれない。さしあたってステロイドやロキソニンを処方されたり、躁病を落ち着かせる薬などを処方されて「様子を見てて」みたいなことしか言われないだろうし、もしも僕が普通の医者の立場だったら「外見的症状が出ていない話」に対して、そうとしかできないんじゃないか、と思っている。

また、この歳になって現れたこの症状に対しては、やっぱりなんらかの「要因」を見つけてそれに対して対処しないと根本的な治療にならないとも思う。痛み止めや抗ヒスタミン剤は不快な症状を和らげるだけなのであって、根本治療ではない。根本治療を目指すとなると「体質改善」に他ならない。それをするのは漢方だ。そう考えた。

と、いうことを漢方専門のお医者さんの前でこんこんと説明した。たぶんこの症状を治療しようと思うと漢方で、他の分野はすべて症状緩和のみじゃないかと思うんです、と。

するとお医者さんはすごく元気良く「おっしゃるとおり!本当にそのとおりだと思います!」と答えたかと思うと、
「本当にこれだけだとわかんない!他人から見て症状が見極められないのだから手の打ちようがない!そういうときの体質改善は漢方!」

「でも私が聞いた中でひとつだけ引っかかるのは『怒ると痛い』というところ。これは精神的なストレスとかの要因が強いのかも、と考えられます」

「なにかストレスとかありますか?引っ越されたばかりですし。お子さんも三人目が生まれるっておっしゃってたしねぇ」

「そりゃあストレスはたぶんいっぱいありますよ…。子供が増えるよりも、仕事がこれからうまくいくかっていう不安が大きいです。でも、大阪からガラッと変わって最近思うんですけど、どこで何をやってたってストレスってあると思うんです。大阪だったら大阪なりに暮らしも仕事もストレスがあったし、神山でもちがうベクトルで暮らしも仕事もストレスがあると思います。子供が増えるのってストレスも増えるって言えそうですけど、仮に僕がずっと独身だったらって考えたら、それも強いストレスだと思います。会社勤めでもフリーランスでもそうで。結局ストレスって無くならんと思うんです。だって、お医者さんだって、大学病院勤めのストレスもあれば、独立開業クリニックのストレスもありますよね…?」

「もう!特に徳島の医大なんてそりゃあもう……」

という、診察なのかなんなのかよくわからない話に進みながら、診察が進み、

「はい!じゃあそんな森口さんには今回は『四逆散』を出そうと思います! これは何かと言うと4つの生薬が入ってて、怒りや不安を薄めて落ち着つかせたり、炎症を鎮めたり、気の巡りを良くする力があります。2000年以上前の中国の『漢』の時代から使われてるやつです。ほかにも8個も10個も生薬が入ってる漢方とかもあるにはあるんだけど、漢方は『寄せていく』というか、『病原に対してアプローチを縮めていく』という方法をとります。だから最初はシンプルに4つの生薬が効くか効かないかを見て、効いたならどれが効いたのかを寄せていく。そんな感じです!」

と言われた。

症状を問診し、顔や手や腹に触れて、脈を測り、舌を見て、どの漢方を選んで寄せていくのかを決める。だいたいそんな診察だった。

そこで診察中にふと思ったのは「症状から漢方のセレクトを決めていく技術というのは、どうやって身につけたんだろう?」という疑問だった。2000年前の中国から続く体系をすべて学ぶ必要があるし、おそらく日本に持ち込まれてから日本独自に派生した体系も多くあるはず(日本では手に入らない生薬もあれば、日本でしか手に入らない生薬もある。そして日本の気候だからこそな症状なんかもあるはず)。それらをすべて暗記するだけじゃなくて、即座に『これとこれ!』と見立てるセンスというか、『編集力』みたいなものって、どうやって培われてるんだろう。脇道に逸れがちな診察だったので、最後に思い切って聞いてみた。

「最後にちょっと聞きたいんですけど、先生はどこで漢方を習得したんですか?漢方の学科とかあったんですか?」

「それがね!漢方って医大で学ばないの! 今でもかんっぺきな『徒弟制』で勉強するの。徒弟制よ。徒弟制。教科書とかなくて、師匠にくっついて、見たこと聞いたことを盗んで覚えるしかないの。私も徳島大の病院に勤めながら休日に神戸の師匠のところに4年間通って勉強したわー」

「でもね!漢方ってほんっとうに面白いの! よく『長く服用しないと効果が出ないイメージ』が漢方にあると思うんだけど、ぜんぜんそんなことなくて、効くときはすぐ効くし! よく『食前に飲まないといけない』とか言われるけど、それも忘れちゃったら食後に飲んでも効くし! とにかく自分自身の体の反応にすぐ出て、すぐ体が変わっていくから!じゃあ3週間分渡すから、3週間後に!」

と、もう常に語尾に「!」が付いてるようにしか聞こえないような元気なお医者さんから漢方を山ほどいただいたのだった。

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