スペルト小麦とわたし

in 思考の果実

年末年始にシュトレンを焼いて販売していると、妻の友人から注文の連絡があった。彼女は今まで家の近所のパン屋さんからシュトレンを買っていたのだが、昨年いきなりパン屋さんが「小麦アレルギー」を発症してしまい、パン屋を廃業してしまったのだそうだ。(ちなみにそれは「バナナ入りのシュトレンだったんだけど、つくれる?」というオーダーで、妻はカスタムシュトレンを無事焼いた)

今は大丈夫、ぜんぜんアレルギーじゃない、家系的にもセルアック病患者とか居ないし。そう思っていても、アレルギーというものはある日突然発症するものなのだそうだ。パン屋やうどん屋、パティシエが「自分にはこの道しかない!」と決意して修業に励み、自分の店まで持ったのに、「自分の努力や工夫の範囲外のできごと」である小麦アレルギーに負けざるを得なくなってしまったとしたら、ものすごくいたたまれないなあ……と思う。

自分だってそうかもしれんよな。いつ何がどうなるかわからんよな。実際問題、そういうのとはぜんぜん違うアプローチだろうけど「体温が上がると身体がチクチクする」って症状が現に出てるし。

そう考えると、「食べる側」の健康を大切にするのはもちろんのこと、「つくる側」の健康も大切にしないと、どんな仕事も続けられないなあ、とあらためて思った。

今までの「デザイナーとしての自分」ならば、椅子に座りっぱなしでモニタをにらみ続けることによる「腰・首・肩・眼」の悪化を防ぎ続ける仕組みづくりのようなことをきちんとつくって働かないと、長い年月働き続けてられないとずっと考えていた。それについては僕は「立ち机」という答えを出した。

ならば、「パン屋としての自分」については「働きすぎによる体調の悪化」に対してどのような予防策を講じればいいんだろう。

夫婦で話し合って、まず「つくる側にとって極端にいいところ」からトライしてみたら、我々はどう変わるのか、と考えた。そこで「有機スペルト小麦と有機ライ麦でパンを焼く」ということを決めた。

スペルト小麦。それは品種改良以前の原初の小麦。聖書の時代に食べられていた小麦だ。
詳しくは他社のサイト「スペルト小麦の教科書」を読んで欲しいが、要するに「もっと多く収穫できるように」「もっとふっくらと焼けるように」「もっと甘くなるように」「もっと病気に強くなるように」と品種改良されてきたような小麦ではない、最初の「ありのまま」の品種で、不自然な改良が行われていない小麦なのだそうだ。人工的な操作が行われていない食物というのは、食べる・触る人間にとって良いものだと言えるんじゃないかと思う。

そして、スペルト小麦は小麦アレルギーが発症しにくい小麦だとも長年言われ続けている。そもそも小麦アレルギーというのは小麦のどのような成分からアレルギーが起こるのか、というと、実ははっきりしていないのだそうで、小麦自体の成分からだけでなく、残留農薬や化学肥料の影響によるところも否定はできないらしい(なんてったって世界一消費量の多い主食だから)。仮に不自然な品種改良の蓄積と農薬や化学肥料によって引き起こされたのが小麦アレルギーなのだとするならば、この「スペルト小麦」の有機のものは、その因子に該当しないはずだ。(でも「小麦アレルギーは無いです」とは絶対に断言できないし、僕らは断言しない)

さらに、よそのパン屋はめったにこのスペルト小麦を使わないため、差別化もできると考えた。なぜ使わないかというと非常に高価だからで、今まで使っていた九州産や北海道産の国産小麦の2倍超という価格だったりする。国内大手の小麦粉メーカーの小麦粉の4倍はする。単純に考えて、普通にスーパーで売ってる菓子パン4個分の生地代だ。

ちなみに、先の廃業されたパン屋さんは国内大手の小麦粉メーカーの輸入小麦粉(ポストハーベスト:船便での長期間の移動に備えて船内で防腐剤・殺虫剤などを混入させること)とイースト菌でのパン屋だったらしい。そんな小麦粉をずっと触り続けたり吸い込み続けたりしているつくり手が健康を害してしまっても仕方がないように思える。

約9000年以上前と変わらぬ存在のスペルト小麦。モリグチャウダーのパンはまずこれで試行錯誤を続けている。しかしながら、やはり9000年間の品種改良というのは伊達ではなく、この小麦の「クセ」はなかなかのものであり、パンづくりは予想以上に難航したのであった。

つづく

いろんな会社を調べてようやく買わせてもらった有機スペルト小麦

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