スペルト小麦とのたたかい

in 思考の果実

約9000年以上前と変わらぬ存在のスペルト小麦。モリグチャウダーのパンはまずこれで試行錯誤を続けている。しかしながら、やはり9000年間の品種改良というのは伊達ではなく、この小麦の「クセ」はなかなかのものであり、パンづくりは予想以上に難航したのであった。

スペルト小麦の特徴は、

  1. 虫や鳥からの害から自ら身を防ぐためか、普通小麦に比べて皮殻が厚い。(つまり収量が少ない。皮殻が厚いと脱穀がやりにくかったり中身の量が少なかったりするので、より薄く・大きい麦が多く実るように改良され続けている)
  2. 普通小麦に比べてわずかながら蛋白質が良質であり、リジン、スレオニン、メチオニンなどの必須アミノ酸を含んでいる。
  3. 普通小麦と比べてスペルト小麦は腹腔病の要因とされる蛋白質(オメガ・グリアジン)が少ないため、消化しやすくなっていて、腸腔病を発症しにくい。
  4. 普通小麦とはちがってて「フェノール化合物」を持っているため、香りがちょっと違う。このフェノール化合物は体内で天然の抗酸化物質(ポリフェノール)として働く。
  5. デンプンの分解が普通小麦に比べてよりゆっくりと行われると推測される。つまり低グリコーゲンであり、糖尿病患者や変動血糖値の人に対して普通小麦よりも身体に良いと言われている。
  6. グルテンの性質も普通小麦とはちがってて、水和性が高い。

だとされている。品種改良された末の現行の小麦のほうがよく膨らむだろうし甘いんだと思う。でも、栄養価はこちらのほうがいいし、有機認証を受けているのも僕ら夫婦としては好ましい。だから使い始めたのだが……。

今まで使っていた国産小麦、いわゆる「地粉」と比べて、水馴染みが良すぎると僕らには感じられた。てゆうか、馴染みすぎるのか何なのか、とてもダレる。成形する段階で、トロットロのつきたての餅みたいな感触になってしまうのである。はっきり言って成形しにくい。

 

有機スペルト小麦のカンパーニュ。酵母も有機スペルト小麦ルヴァン種。ダレやすすぎて高さが出ない。でも超美味しい。

クラムの気泡がすごく多くて軽い食感に仕上がった。水分が多かったからか。いい香り。超美味しい。

現にカンパーニュを焼いてみたところ、ことごとくダレる。カゴに入れて二次発酵させて出した瞬間ダレる。縦方向へのボリュームが出ない。

だったら型に入れてしまったらどうか。食パンみたいに型に入れて焼いたらダレは関係ないはずだ。

 

型に入れて焼いてみようということで、有機スペルト小麦のミニ食パン。パウンドケーキ型で可愛く焼いた。けっこう高さは出せる。

無論これもふわふわで超美味しい

食パンは焼ける。おそらく焼ける。でも、僕らは食パンはできたら避けようと前々から決めていた。食パンというのは日常食であって「安い買い物」であるという認識の人が多いからだ。有機スペルト小麦で食パンを作ったら、その材料費の高さゆえにスーパーで売ってる食パンの何倍もしてしまう(逆に言うと出回ってる食パンが安すぎる)。そうじゃなくても「国産小麦を使ってるいいかんじのパン屋さん」の食パンよりも、ずっと高い。日常食が高くなるのは抑えたい。

この極端に良い小麦でパンを作ろうとしていると、こんなことを考える。「美味しくて身体に良い食品を摂りたい」と考える人は年々増えてきている。でも「美味しくて身体に良い食品を摂るためなら、お金をいくらでも払う」という人は、おそらくごくごく少数なんじゃないか。そんなことを考える。
「身体に良い食品を、なるだけ安く手に入れたい」というのが、残念ながら万人の本音なんだと思う。いや、「残念ながら」などと言うけれど、実際に自分自身が「買い手」ならば迷わずそうする。現にそうしてる。

もし食パンをやるならばネット注文で「今月のパンセット」などの形で複数のパンを2000円分とか4000円分とかで売るとして、その中にスペルト小麦食パンが入ってる、という方法じゃないと、買い手が付かないのではないか。そう考えた。

どうすればダレやすい生地をよい形のパンに着地させることができるのか。どれくらいの分量の小麦ならば「食べ応え」と「価格」のバランスが取れるのか。それを1月初旬からずっと試し続けていた。
(つづく)

思考の酵母: