ライ麦100%を目指して(前編)

in 思考の果実

スペルト小麦のパンと同時にずっと考えていたのは「ライ麦100%のパン」の製造と販売だった。

僕が住む徳島県は全国でも有数の生活習慣病患者数を持つ県。糖尿病は平成5年から平成18年にかけて,14年連続して「糖尿病死亡率全国ワースト1位」が続いていたと県のウェブサイトにある。(それでも昨年は5位
これは引っ越してきてからいろんな人に聞かされて知ったことだった。知り合う人の中でけっこう糖質制限をしている人が多かった。「ご飯は基本的に食べない。肉と野菜だけ」「パンも食べられない」という人を、ここ神山町でけっこう出会った。

そういう生活習慣病患者は「都会」にこそ多いはずだ、と大阪に居た頃から思っていた。絶え間なく続く残業や近隣とのトラブルなどによる過多なストレス、汚れた空気、そしてコンビニやスーパーの乱立による「何気なくいろんな食べ物が簡単に買えてしまう環境」が、人の食事量を過剰に増やしてしまい、生活習慣病を発症する……。そんな感じで考えていた。

でも現実には田舎のほうが生活習慣病の人と予備軍の人は多かった。こんな山の中の限界集落のほうが、大阪府茨木市で暮らしているよりも多くの患者さんと実際に出会う。なぜだ。

そういえば和歌山の田舎に住む父も糖尿病だ。もう毎日インシュリンを打たねばならない状態になっている。下戸なので酒の飲み過ぎで患ったのではなく、甘いお菓子が大好きなのでそれで患ったのだと思われる。学校教員をしていて、陸上部の顧問を長らくしていた頃はとても健康的に見えていたのに……と思い返すと、どうも顧問から退いて教頭、校長になり、そして定年退職へと進むたびに糖尿病が進んでいったんじゃないか?とか、ちょっと思ったりする。

たぶん、僕の推測なのだけれど、田舎は「どんな短い距離でもクルマで移動する」という生活習慣が根付いて、それによる「運動不足」が生活習慣病の原因なんじゃないかと思う。
茨木市に住んでいた頃は最寄りの駅まで1.5kmの距離を毎日歩いて、阪急電車に立って乗り、地下鉄の構内を歩いて地下鉄に立って乗り、職場まで1kmほど歩いていた。昼食時間も歩いて食べに行き、休憩時間や就業後の時間も本屋なんかに歩いて立ち寄る。
でもここ神山町では玄関を開けたらまずクルマに乗り込む。町内の中でも行くべきところ、たとえば小さいスーパーや役場などは4〜8kmほど離れているため、クルマがあればクルマで行く。一人で行くときや天気が良い日はまだ自転車にも乗れるが、雨が多いこの町ではクルマが必然的に増える。家族で移動するならば絶対クルマ。食料品を買ったり図書館や銀行に行かねばならない時は、30kmほど離れた徳島市などまで山を降らねばならないので当然クルマ。とにもかくにもクルマだ。

田舎では「自分の家に田畑があるから身体はよく動かしてるよ」という人も多いのだろうけど、それでも田舎はやっぱり歩く量が極端に少ないんじゃないかと思う。だから、「生活環境」は良くても「肉体的な生活習慣」は都会より悪いんじゃないか、と思う。

生活習慣病になると、たとえば糖尿病になると、普通の白いご飯や白いパンは食べる量に制限を受ける。もしくは食べられなくなる。白米ではなく玄米を、それも決められた量じゃないと食べられなくなるのだろうし、ましてやパンならできるだけ糖質の少ないパンじゃないと食べられないのだろうと思う。

だから、「肉体的な生活習慣が都会より悪い」ここ神山町でパン屋を(も)やっていくのならば、「今、神山町に住んでいる若者」にもそのうちじわりじわりとやってくるであろう生活習慣病への対策を、少しでも打てそうなパン屋になったほうが、より町の人達から求められるのではないか。徳島県中からでも求められるのではないか。昨年の10月くらいから、漠然とそう考えていた。

そこで、まずつくってみたい、つくったほうがいいと考えたのは「ライ麦100%のパン」の製造と販売だった。
ウィキペディア「ライ麦パン」を読んでもらうとわかるが、僕らが目指すのは「ライ麦が90%以上のもの – ロッゲンブロート」だ。糖質制限を受けている人にも食べていただけるパンをつくるならば、ライ麦が10%だの30%だのしか入っていなくて他は全部小麦粉……など、「焼け石に水」ではないかと思うからだ。その中でもライ麦の酵母でつくる「ライサワー種(サワードゥ)」で、生地もライ麦粉しか使わない、「ライ麦100%のパン」をつくって売りたい。

しかしながら、これがなかなか難しかった(よく考えてみたら、簡単にできるものならばとっくの昔からもっとよく流通されてるよね)。ライ麦100%のロッゲンブロートへの試行錯誤が、年をまたいで続いたのであった。

最初の試作ライ麦パン100%。このころはまだ型にも入れずになんとかまとめて焼いていた。

つづく

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