思考の酵母 ‘パン’

やりたいことで、やっていこう

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6月からベーグルをやめてカンパーニュばかりを焼いていたところ、先々週いきなり「予約」というものが初めて入った。喜多の安心市に卸してるレーズンのカンパーニュをホールで3つ。僕に電話で問い合わせたかったが連絡先がわからず、ネットで検索しても出てこなかったから、店に「次に焼いて持ってくるときに3つとっといて」という予約を頼んだ、とのことだった。
そうか、予約か。それだと欲しいパンが欲しい分だけ手に入るから、たしかにいいな。こっちも売れ残るということがなくなるし。そう思って焼いて納品した。

 

するとついこの間の夕方、突然見知らぬ番号から電話がかかってきた。

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ライ麦100%を目指して(前編)

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スペルト小麦のパンと同時にずっと考えていたのは「ライ麦100%のパン」の製造と販売だった。

僕が住む徳島県は全国でも有数の生活習慣病患者数を持つ県。糖尿病は平成5年から平成18年にかけて,14年連続して「糖尿病死亡率全国ワースト1位」が続いていたと県のウェブサイトにある。(それでも昨年は5位
これは引っ越してきてからいろんな人に聞かされて知ったことだった。知り合う人の中でけっこう糖質制限をしている人が多かった。「ご飯は基本的に食べない。肉と野菜だけ」「パンも食べられない」という人を、ここ神山町でけっこう出会った。 (さらに…)

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はじめての注文

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11月末の「徳島4K映画祭」と先週の「下分よこの市」にパン屋として出店したモリグチャウダー。まずは無店舗で営業をはじめることにしている。パンを焼ける工房はあるが、販売する店舗を持つとなるととたんにハードルが上がるからだ。 (さらに…)

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パン屋がはじまる(4)

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パンを焼くテストが無事終わり、26日・27日の徳島4K映画祭での出店内容が決まった。

パンはクッペを5種類。1日96個限定(3時起きでひとりで捏ねはじめてこれくらいが限界)。
・有機黒ゴマのクッペ
・有機ドライフルーツとクルミのクッペ(有機イチジク、有機レーズン、有機クランベリー入り)
・クミンのクッペ
・何も足さないクッペ(具なし)
・有機トマトジュースで捏ねたチーズのクッペ(ヒカリのトマトジュースを生地に練りこんだ)

当初、普通にチェダーチーズでクッペを焼いていたが、大阪時代に水の変わりにトマトジュースを練りこんでチーズを入れて焼いたカンパーニュが「紅白饅頭みたいでめでたい」と好評だったのを思い出して、つくてみたらとても美味しかった。チーズのクッペはこれに変更。

そして、今回はパンと合うスープも出す。スープづくりは全面的に妻が担当。妻が愛してやまない「白崎茶会」のレシピをもとに、地粉のドミグラススープときのこのスープを出します。両方とも動物性たんぱく質を使わないスープ。

で、一昨日の話なのだが、このトマトのパンをテストするため、そして「朝4時に起きて捏ねてみたら、何時頃焼きあがるか」を試してみるために24個焼いた。
当初は「前日から焼いてればいいじゃない。ここ神山町の無店舗パン屋「沢パン」も、イベント出店の時は前日焼いてるパンを出してるって言ってたし」と思ってた。そんなに味がむちゃくちゃ変わるわけじゃないじゃない、と。

でも妻は「いやいや、ここまできたら当日早くに焼いて、焼きたてを出したほうが絶対にいい。だから普通のパン屋のように2時3時からアンタ捏ねないと」と言うのである。

あのね、本業はデザイン事務所でね。午前2時って普通寝る時間だよ(普通のデザイナーが夜もずっと仕事をして寝る時間がそれくらい)。なんで寝る時間から捏ね始めて、3〜4時間後に成形してってやらんとあかんの。それ、いつ寝るの? どうして森口家が「ブラック家内制手工業」になるの?(しかも基本的に僕の負担が大きいんじゃ…)そう思っていて、「こんな限界集落で都市より無理なんかするもんか!」と思った。

話が変わってこの日、神山町の「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」では、18時から「ポートランダートークin神山」という小さいイベントが開かれることになっていた。徳島大学神山学舎の恒例イベントらしく、今回はポートランド市民のメーガンさん、ユリさん、サイラスさんの3人が来日し、ポートランドの暮らし・子育て・農と食を通した「場」づくり・CSA・ファームtoテーブル活動などについて井戸端会議的トークが開催される、とのことだった。これは参加してみたいと思い、ちょうど朝10時ごろにパンが焼きあがったし、今日は祝日で町の友人たちは出払っているだろうから、特にこの会の誰にも言わず、パンを持って行ってナイフで切って食べながらトークをしてもらおう、と考えた。18〜20時のトークだったらご飯があっても誰も文句は言うまい。外国の方も食べてくれそうだし。

そう思って持って行き、何も足さないクッペとクミンのクッペとトマトチーズのクッペをスライスして並べ、みんなでつまみながら話をした。とても興味深い話だった。ポートランドと神山は、成り立ちから課題点まで「骨」の部分が似ていると思った。また、パンもみんな「美味しい美味しい」と言ってくれて、とても嬉しかった。

が。しかし。しかしである。少しずつ、その「おいしいおいしい」の声がちょっと我慢ならなくなってきた。いや、本当は「もっとおいしい」んですよこれ。10時に焼いて19時ごろに食べる。今回は「早朝に焼くテスト」だったからそれは仕方ない。でもね、たとえばまず天然酵母のハードパンがおいしいのは焼きたてではなく焼いて冷めてから。焼きたて2時間くらいがまず1度目の「もっとおいしい」で、それからはオーブンで軽く温めてカラッとさせたのを食べるのが「もっとおいしい」んですよ。だから、今みんなが食べてるパン、オーブンで温めたい。本当に、今すぐ、オーブンで温めたい。手を伸ばすのちょっと待って! それ、オーブンで温めたい!
そんな気持ちでいっぱいになってしまった。ので、コンプレックス内にある小さいオーブンを引っ張ってきて、焼いて出した。こうすると味が全然ちがうんですよ、と。

案の定、みんなは「別のパンみたいや!」と喜んでくれた。納得。納得だ。超スッキリしたし超嬉しい。ベストの形を味わってもらわないと、つくった甲斐がないと思った。

そんな思いが自分の中によぎったと同時に、「ああ!!俺、2時3時に起きてパン焼かんと! それがベストの味で出せる方法だったら、それをやらんと!」と思い至った。
どんなにいい材料で出そうが、食べ物で大事なのはおいしいかどうか。「まあ、材料がいいし、手作りだから、パンマニアばかりが食べるもんじゃないんだから、こんなもんでしょ」ではいけない。そもそもデザインも一緒ではないか。世に出た成果物が実力のすべてとなってしまうこの世界、業界人や玄人にだけウケるものづくりなど論外で、むしろ「ふつうのひとびと」が率素直に喜んでしまうようなものを毎回つくってナンボ。そうなるように最大限行動することこそ、僕の「努力」ではなかったか。

一般的な枠の日本人だからご飯も当然美味しいし、グルテンだのアレルギーだの言われるときもあるけれど、肉料理やスープと一緒に食べる食事パンのある食卓も、いつもよりちょっとワクワクしてとてもいいものだと思います。

1日につき96個、各味あたりだと20個も無いので、もしかしたら簡単に売り切れるのかもしれないし、もしかしたら売れ残って家族全員涙目なのかもしれない。けど、この「健やかで美味しいパンをつくって売る」ことで、だれかの食卓がちょっと豊かになればいいな。そして、僕らがパンをつくって売ることで、まだ見ぬ素敵な誰かと誰かがたくさん出会うきっかけになればいいな、と思います。ぜひ。

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パン屋がはじまる(3)

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妻が作りたがる「ボカリージョ」。それはスペインの代表的なサンドイッチのことだった。妻はフラメンコを15年ほどしており、スペインで暮らしていたこともあるので、向こうで食べたボカリージョをこっちでやると絶対成功するよ!と強い口調で言うのだった。

ボカリージョはパリパリの固いバケットに生ハムを挟んで食べるのが一般的。卵やちょっとした野菜やチーズなども挟んで食べたりもするらしい。が、やっぱり「ハードパンに生ハムのみサンド」が、シンプルで飽きがこず、絶妙な美味しさなのだそうだ。 (さらに…)

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パン屋がはじまる(2)

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パン屋をするにあたって、やってみたいことは「自家製の天然酵母でパンを焼く」ということだった。

今から5年前、妻が長男を出産してから「パンにこんなに添加物があるとは!」と言い出し、良いパンを安く食べるには自分で作るしかない!と言い出して、図書館から酵母の育て方が載ってる本を借りてきて、酵母を育て始めたことがそもそものきっかけだった。あくまで最初の動機は健康的な理由もあるが、経済的な理由のほうが大きかった(お金持ちだったら自家製酵母のパン屋から毎日買ってればよかったから)。 (さらに…)

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パン屋がはじまる(1)

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11月の25〜27日に開催される「4K徳島映画祭2016」で、パン屋として出店することになった。出店は26日と27日。ついにパン屋がはじまる。

この映画祭は2回目なのだが、今回は「神山でかつて栄えていた寄井商店街を劇場商店街にする」というコンセプトを掲げていて、飲食・物販からワークショップまで50の屋台が並ぶこととなっている。そのうちのひとつとして、僕らが「自家製天然酵母のパンとスープの店」を出店することになったのだ。

僕らが神山町に引っ越してきた理由の一つに「パン屋を(も)したい」がある。数少ない夫婦共通の夢、パン屋。大阪でやろうと思うとまず家賃が高いだろうし競争相手も多すぎるから、スタートアップがかなり難しそう。でも田舎なら家賃は安いし競争相手も少ないから、始めやすいのではないか。そう考えて、どこの限界集落に引っ越そうともパン屋を(も)やろうとは思っていた。
また、デザインの仕事は「依頼あっての仕事」だから不安定だけど、「自分の手で売り物をつくって売る仕事」をそれにプラスさせると安定しやすいのではないか、という狙いもあった。デザイン事務所がカフェを運営するというケースは意外とよく見られるが、あの「お互いの仕事を内容的にも経済的にも補完し合う」というのを自分もやってみたかった。単にコーヒーとお菓子を出すカフェよりも、無店舗販売でもパンを売るほうが儲けやすいんじゃないか? とも推理する。

たしかに、それだけを聞くととても楽天的な考えかたかもしれない。実際には神山町は移住希望者が殺到する限界集落で、したがって空き家や空き店舗は全然無い。だから、たとえ家賃が安いだろうと踏んでいても、物件自体がそもそも無い。
また、都会より田舎のほうが競合他社が少ないとは言えど、買ってくれるお客さんの数は田舎のほうが絶対的に少なすぎるわけで、開業しやすいかもしれないが儲けにくいかもしれない、ということも考えられる。

ただ、ここ神山町は全国の田舎の中でもいろんな方向から話題性があり、注目を集める町。毎日毎日視察や見学は山のようにやってくる。だから町民向けだけでなく、町外から来られる人にも買ってもらえる飲食ならば、まず複業としてやっていくならば、まだ十分可能なのではないか、と考えた。ましてやパンなら持ち帰って食べることができて場所を選ばないから、飲食ブースを用意しなくてもいい(でも、最終目的は「楽しく食べたり話し合えたりできるたまり場」をつくりたいと考えている)。
神山町は徳島県の他の田舎より都心に近く、徳島市までクルマで30分もあれば来れるという立地もプラスに働くのではないかとも考えた。
そして、パンを製造する場所を持たなくても、この町には町民が使える超古いパン焼き用のオーブンがあったり、とある町民が「シェアキッチン」を建設中だったりしていた。だから、まず焼く場所を構えないと無店舗販売すらできない、という状況ではなく、パン屋をはじめるハード側のハードルはむしろ低そうなのだった。

そしてそもそも「酵母を起こしてパンを捏ねて成形して焼く」という作業は夫婦ともに楽しいと思える作業だし、食べてもらってその場で喜んで貰えるというのは、シンプルにやりがいを感じた。これも合わせて生計に役立てるって、素直に楽しそうだと思っている。

 

だから、今回の出店を誘われたのは「渡りに船」だった。それから、一食分をどれくらいの価格帯に決めて、どんなパンを焼けばコストが合うのか、それに「僕らが提供したいパン」をすりあわせていくのを夫婦で考えあった。

(2につづく)

とにかく試作の日々

とにかく試作の日々

 

「奥さんじゃないほう」がパンを焼く

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去年の11月に長男が失語状態になって以降、なぜだか不思議と家で自家製酵母が起こせなくなった。タルマーリーの渡邊格さんが著書「腐る経済」で書かれているように、人の感情に酵母菌は本当に左右されるのだということをここ半年身をもって感じていた。

が、神山町に引っ越してはや4ヶ月。そんなこんなでなんとか長男も成長し、少しずつ穏やかさを取り戻しつつある森口家。妻はたまに「白神こだま酵母」という人口培養された天然酵母でパンを焼いたりしていた。近所の人たちから野菜などをいただいたら、お返しに渡すのはパン。ハード系のパンはお年寄りは召し上がらず、食パンを焼いては渡していた。

まあそれはそれでいいとして、引っ越してきて4ヶ月でよく聞くのは「森口さんの奥さんって、パン焼くんですよね?」というようなセリフだ。 (さらに…)

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